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終の棲家の実情 高齢者に対する賃貸借契約について貸主側はけっこう大変

みなさま こんにちは。

札幌のFPを中心とした専門家ユニット「なないろ福円隊」

FPベンゴシ松下孝広です。

北海道はひと月遅れの春ですね~。

実は、ある高校のPTA会長をしていまます。

4月は、入学式での祝辞、役員顔合わせ、PTA総会の準備やらで、大変でした(なんせ初めてなもので)。

そんなんで、春を愛でる、なんて気持ちにならなかったのですが、やっと落ち着いてきました。

 

飼っているワンコと一緒に、咲き始めた山桜、もうすっかり成長しきった蕗のとう、樹木の新芽などを愛でながら散歩するとほんと癒やされます。

私は、春を感じさせる花では、クロッカスが一番好きです。

クロッカスはちっこい花です。

4月下旬でも雪が残る!札幌で、点々とまばらに咲いています。

小さな声で「春ですよ~」って言っているようで、その遠慮がちな姿が、私には短い春を象徴しているように感じられます。

 

さて先日、住宅事業者向けに看取りの法的側面というタイトルでお話をしてきました。

 

 

これは、厚労省の資料です。(平成24年度診療報酬改定の概要 )

2010年の65歳以上の死亡者数は、約102万人で、2030年には、約40万に増加予定ですことを示しています。

 

グラフの色分けは、お亡くなりになった場所(看取り場所)を示しています。

1976年頃に、自宅での看取りから病医院での看取りが多くなり、以後ずっと病院で最後を迎える、という方が増え、現在では圧倒的に病院です。

(もちろん、ぎりぎりまでご自宅で看病して、最後の最後の瞬間だけ病院というのもあるのですが、少数であると思われます。)

 

さて、今後、病院のベッド数が増える見込みはありません。

かといって、自宅で最後を迎える、という方が、劇的に増える可能性も高くないと思われています。

介護施設も、看取りとなると、そこに居住できる施設であることが前提です。

そのような施設としては、特別養護老人ホームがあります(法改正で要介護3以上の方のみが入ることに)。

しかし、この数も増える見込みはありません。

次の図は、また厚労省の資料です(ちょっと古くて2006年)。

 

この図の推計部分を見ていただけるとはっきりわかります。

棒グラフ緑の部分は、増えないでスライドしています。つまり病院での看取りは増えません。

自宅も介護施設も微増です。

 

今後増える高齢者が最後を迎える場所は、

自宅でもない、病院でもない、介護施設でもない、ということになります。

増える部分を吸収する場所は、「その他」です。

「その他」って何よ?ってことですが、実際期待されているのは、高齢者専用住宅です。

近時雨後の竹の子のように、ものすごい勢いで増えたサービス付き高齢者向け住宅というやつです。

 

法も、通称「高齢者住まい法」高齢者の居住の安定確保に関する法律)において、サービス付き高齢者向け住宅で最後を迎えることを前提にしているように思われます。

サービス付き高齢者向け住宅は、多くは賃貸借住宅です。

サービス付き高齢者向け住宅では、借主の死亡を契約終了事由とするが認められています。

 

これは、特別なことのように思われないかもしれません。そこで、一般的な賃貸借契約がどうなっているのかを見てみたいと思います。

実は、普通の建物賃貸借契約では、借主の死亡によって直ちに契約が終了する、という条項は無効であると考えられています。

 

建物賃貸借契約は、借地借家法という法律の適用を受けます。

そこでは、次のように、貸主からの解約申し入れを規制しています。

(1)期限の定めがある賃貸借契約(例えば賃借期間2年とか)では、最低6ヵ月以上前に、契約を更新しないという申入れをする。

(2)期限の定めのない賃貸借契約では、解約申し入れから6ヵ月後に賃貸借契約は終了する。

(3)以上のいずれの場合も、不更新・解約申入れに正当理由が必要。

(以上、借地借家法26条-28条)

 

このように、賃貸借契約の終了は厳しく制限されています。これは、現実には立場の弱い場合が多い賃借人保護のためです。

この規制を緩めて、賃借人に不利益となるような特約は無効とされています(借地借家法30条)

 

また、賃貸借契約の借主の地位(賃借権)は、相続の対象になります。

そこで、借主の死亡後も、相続人が賃借人として、建物を借りる権利を相続できます。

(たとえば、夫が賃借人で、妻が同居している場合、死亡した夫から妻に賃借権を相続させて、居住を確保するためにこう考える必要があります)

 

このように、賃借権は、相続対象であることを前提に、賃貸借契約の解約等は厳しく制限されているので、「賃借人の死亡」で直ちに賃貸借契約が終了する、という特約は許されないと考えられているのです(先に示した夫婦同居の事例を考えると、そうしないと、遺族である妻が賃貸借契約終了で直ちに出て行かなければならないことになります)。

 

サービス付き高齢者向け住宅住宅では、このような規制を受けず、「賃借人の死亡」を契約終了事由とできます(高齢者住まい法52条)。

このような条項がある契約を「終身建物賃貸借契約」といいます。

これは、そもそも、「高齢者」が賃借人であり、賃借人の死亡が見込まれること、

また、「サービス」は高齢者に対するサービス(見守り等)なので、高齢者以外のひとが入居することが予定されていないので、相続を認める必要がないことが理由です。

(なお、夫婦同居の場合は、契約は続くようになっています。高齢者住まい法62条)

 

このように、サービス付き高齢者向け住宅では、死亡による終了を前提にしているので、「遺品や残置物」の処理についても、契約書に事細かく記載されるのが一般です(見本となる標準契約書に詳細に規定されています)。

例えば、残置物の引取人を決めるとか、一定期間引取がない場合は処分して、その費用は敷金から差し引く等です。

 

他方で、一般の賃貸借家約では、そもそも「賃借人の死亡」による賃貸借契約の終了が予定されていないし、相続人がいることが前提なので、死亡後の残置物の処理等について契約で規定していることが少ないです。

建物内の遺留品、残置物は、理屈上は、相続人に引き継がれます。ですから、相続人の財産であり、相続人に引き取ってもらうことになります。

 

しかし、現実には、高齢者住まい法によらない、一般の賃貸借契約でも、高齢者が借主で、死亡後、相続などに対する配慮が必要ないと思われる場合は、たくさんあります。

端的に言えば、身寄りのいない独居高齢者が借主の場合です。

この場合、借りている方も、死亡で賃貸借契約が終了すると思っているでしょう。

仮に、相続人がいるとしても、生前に交流がなければ、相続で賃貸借契約を引き継ぎたいと考えることはほぼ0と思われます。

 

このような場合に、賃貸借契約が、終了しない、ということはこうなります。

(1)賃貸借契約は、相続人を借主として継続する。

  相続人がいない場合、家庭裁判所が相続財産管理人を選任して、相続財産を管理する。

(2)したがって、(誰も住んでいないにもかかわらず)賃料は発生する。

  これは、相続人がいる場合は、相続人に思わぬ不利益となる。

  他方、貸主としては、敷金以上の未払賃料が出た場合、回収不能のリスクを負う。

(3)借主から解約や不更新等の通知をしようとする場合、効力発生まで6ヵ月以上の期間が必要となる。

 また、解約等の申入れをするべき相手=相続人を探さないといけない。

(4)契約が続いている以上、賃貸人が勝手に賃借人の借りている建物内に立ち入ることができない。

(5)室内に勝手に入れないし、相続人の財産である以上、残置物等を勝手に処分してもいけない。

 

このように、一般の賃貸借契約の場合、非常に現実的とは思えない事態になります。これが現在の法の理屈です。

 

以上のような事態が現実的ではない以上、実際には死亡と同時に賃貸借契約は終了する、ということを前提に、賃借人の死後の事務処理をしていると思われます。身寄りがいない場合は、それで文句を言うひとも出てくるとは思われないので、何とかなっているのでしょう。

(法律上も、「事務管理」という制度で、何とか正当化できないわけではないのです)

 

しかし、法の理屈では、以上のとおりなので、これに反することをしていた以上、疎遠な相続人から文句を言われる等のトラブルの危険は否定できません。

 (「事務管理」という制度は、そもそも、賃貸借に特化した法律ではなく、規定が抽象的なので、適法になるかどうかは、事案毎の判断が必要です。事案によっては必ず適法になるとはいえません)

 

トラブルを回避するには、賃借人である高齢者と生前に、死亡後の事務処理等について、第三者に委任してもらう等の対策をとっておくことが必要になります。

そのためには、弁護士等の法律家の助言が必要と思われます。

 

高齢者の賃貸住宅が、すべて「サービス付き高齢者向け住宅」になるわけではなのです。

高齢者が増えることがわかっているのです。

いわゆる孤独死は、このような問題を当然に発生させます。

上記のような、身寄りのない高齢者の一般賃貸借契約の終了に関する法律上の問題は多くの法律家がわかっています。

 

高齢者の入居を前提にした賃貸借契約については、法改正で何らかの手当をしてほしいところです。

 

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(文:FPふきこ)

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