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本当に贈与した?-預金の権利者と贈与- FPベンゴシ

みなさま こんにちは。

札幌の FPを中心とした専門家ユニット ’なないろ福円隊’

FPベンゴシです。

 

先日、ある学校の卒業式で、卒業生のみなさんに祝辞を贈りました。

 

祝辞なんて、はじめての経験ですから、どうしていいやら、あれこれ考えて、結局、私の経験を話して応援メッセージとして送りました。

拙い話しでしたが、笑いを誘おうと思ってしたアドリブでは、ニヤニヤしてくれていたし、けっこう真剣に聴いてくれていました。

若者を応援するって、素敵な体験だと思いました。

 

さて、そんな前振りから、本日は、大人のカネの話しをしたいと思います。

クイズです。

 

小沢さんには、二人の息子由起夫さんと直人さんがいます。

小沢さんは、由起夫さんのお子さんである孫克也君ために、克也君名義で、200万円の預金をしました。

その後、小沢さんが亡くなり、その息子の由起夫さんと直人さんが小沢さんの財産を相続しました。

 

由起夫さんと直人さんの間で、克也君名義の200万円預金のことが問題になりました。

 

(由起夫さんの言い分)

預金は克也名義なのだから、克也のものである。

 

(直人さんの言い分)

克也名義と言っても、父がお金を出したんだし、克也に贈与したわけではないだろう。

この預金は、実質的には、父のものであって遺産だから、由起夫兄さんと俺で100万円ずつ分けるべきだ。

 

さて、どちらが正しいのでしょうか。それとも、第三の答えがあるのか?

 

検討してみましょう。

 

まず、預金の所有者・権利者はどうやって決まるのでしょうか。

 

この点について、裁判所は、お金を出した人が預金の権利者だといいます。

 

なんと、名義は関係ないのです(注:夫婦間についてはまた別の考慮があり得ます。)。

 

ですから、本件では、「克也」君名義の預金ですが、お金を出したのは小沢さんなので、この預金の権利者は小沢さんです。

 

そうすると、由起夫さんの言い分、「克也名義だから克也のものである」はそのままでは認めてもらえないことになります。

 

一方、直人さんの、預金は父のものだから遺産だ、という主張は、理由のあるものです。

 

このように、預金の権利者はお金を出した小沢さんである、ということになると、

克也君のものとするためには、小沢さんが生前に克也君に贈与していたかどうかが問題となります。

 

では、預金の名義を変えたら、その名義の人に贈与したことになるのか?

 

贈与は、契約です。贈与契約といいます。

契約は、当事者双方が、契約内容について合意しないと成立しません(意思表示の合致と言います)。

 

贈与の場合、こんな風に、当事者の意思表示がなされて、合意がなされないといけません。

あげる人が「これをあげよう」

もらう人が、「もらいます」

 
そうすると、あげる人が、単に預金の名義を、あげたい人の名義にしただけでは、贈与は成立しません。
もらう人が、自分名義の預金の存在を教えてもらい、「それをもらう」という意思表示をあげる人に対してしないといけないのです。
 
本件では、小沢さんは、孫克也君名義の預金を作りましたが、小沢さんと克也君(親権者由起夫)との間で、「あげる」「もらう」という意思表示はなされていません。
ですから、贈与契約は成立していないことになります。
 
ところで、
この贈与契約は、口頭だけの約束でも契約として成立します。
 
そうすると、本件のように、小沢さんが亡くなった後では、「言った!、言わない!」の争いになってしまいます。
 
そのような場合、どんな事実から、契約の存在を推測することになるのでしょう。
(贈与を否定したい側、本件では直人さんは、どんなことに注目して贈与を否定すればいいでしょうか)
(1)まず、『双方の署名捺印のある贈与契約書』があると証拠としては大きいですね。
 
(2)つぎに、贈与するということは、贈与した財産の処分権をあげる、ということです。
 もらう側から見れば、自分のものになるわけですから、自由に処分できるはずです。
 
 そこで、通帳と印鑑が受贈者(もらう人)に渡っていることが重要です。これがないと、預金を処分できませんからね。
 また、もらった預金を実際に自分のものとして使っていれば、それは贈与の証拠になるでしょう。 
 
 逆に、贈与契約書が存在していても、贈与者(あげる人)が通帳と印鑑を持っていたら、もらった人は使えないのですから、
契約書はあっても本当はあげていないのではないか?と疑われます。
 
(3)さらに、贈与税の基礎控除110万円を超える金額の贈与の場合は、もらった側が贈与税の確定申告しているか、も贈与の証拠になるでしょう。
 利益もないのに税金を支払う人はいません。
 自分に所得が生じた、つまりもらったから、その税金を支払ったといえるからです。
 
本件では、上記のような事実、印鑑と通帳が克也側(親権者由起夫さん)に渡っているとか、克也さんが使っているとか、契約書があるとか、
そのような事情を立証できない限り、贈与契約の事実は認定されないでしょう。
 
すると、結局、本件の「克也君名義の預金」は、小沢さんのもので、贈与もなされていない、だから、小沢さんのもののままであった。
その状態で、小沢さんが死亡した以上、「克也君名義の預金」は小沢さんの遺産である、ということになります。
 
直人さんの言い分が正しいのです。
 
おそらく、小沢さんとしては、お孫さん克也君に預金をあげたかったのでしょう。
その意思は実現しませんでした。
贈与は、キチンとしないと失敗することがあります。
また、税金のからみも出てきます。
 
贈与するときは、できるだけ、専門家にご相談を。
 


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